[全訳] 嫌悪表現に反対するメディア実践宣言(2020年1月16日、韓国)
[全訳] 嫌悪表現に反対するメディア実践宣言(2020年1月16日、韓国)
  • 徐台教(ソ・テギョ) 記者
  • 承認 2020.03.18 13:57
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韓国の国家人権委員会とメディア団体が2020年1月16日に発表した「嫌悪表現に反対するメディア実践宣言」を全訳した。原文は国家人権委員会に拠る。翻訳は徐台教。

嫌悪表現に反対するメディア実践宣言

嫌悪表現は韓国をはじめとする多くの国で社会問題として台頭しています。韓国の憲法は「誰でも性別・宗教または社会的な身分により政治的・経済的・社会的・文化的生活のすべての領域において、差別を受けない」(第11条1項)と闡明しています。

しかし最近、女性、障がい者、性少数者、移住民など社会的少数者に対する嫌悪だけで無く、5.18民主化運動の歪曲や日本軍性奴隷被害者に対する侮辱まで、嫌悪表現はより深刻になっています。

こんな時こそ、メディアが嫌悪表現を扱う観点とその方式がとても重要です。メディアは社会の嫌悪表現を防ぎ、市民の人権意識を高めることで、健康な社会を作る先頭に立つ責任があります。しかしメディアがむしろ嫌悪表現の複製、流布、拡散の媒介になり、社会の分裂と対立を増幅させているという憂慮があるのも事実です。

2010年頃、一部のインターネットコミュニティに特定の地域と女性、移住民に対する嫌悪表現が登場した時、様々なメディアがこれをそのまま伝達し、拡大・再生産する結果を呼び起こしました。

2016年の江南駅で起きた殺人事件は、嫌悪が実際の暴力につながった「女性嫌悪犯罪」というのが大部分の社会的な認識であったにもかかわらず、肝心のメディアは「統合失調症のため」という捜査機関の発表を写すにとどまりました。最近、一部の政治家と宗教家たちの嫌悪表現がとみに増えていますが、メディアはこれに対し適切に対応できていません。

多くのメディアに従事する者たちが嫌悪表現に対する憂慮と自省の声を上げていますが、今なお有効な実践に結びついていない実情です。これを受け、私たちメディアに従事する者たちは、非常に大きなジャーナリズムの責務と倫理意識の下、すべての嫌悪表現、ひいてはいかなる憎悪と暴力の扇動にも反対するという明確な原則を明かし、次のような内容を実践することを宣言します。

2020年1月16日、宣言文を読み上げるメディア団体代表者たちと国家人権委員会・崔永愛(チェ・ヨンエ)委員長(中央)。写真は国家人権委員会提供。
2020年1月16日、宣言文を読み上げるメディア団体代表者たちと国家人権委員会・崔永愛(チェ・ヨンエ)委員長(中央)。写真は国家人権委員会提供。

1.私たちは平素、嫌悪表現の概念と脈絡、害悪を十分に認識し、多様な社会現象や発言などに嫌悪表現が含まれていないか、注意深く確認し伝達します。

■嫌悪表現の概念と害悪:
嫌悪表現(Hate Speech、ヘイトスピーチ)は「性別、障害、宗教、年齢、出身地域、人種、性的志向、宗教などを理由に、ある個人や集団に対し、侮辱・卑下・蔑視・脅迫または差別、暴力の宣伝と扇動を行うことで、差別を正当化・助長・強化する効果を持つ表現」を指す。

嫌悪表現は、△嫌悪の対象になる人物や集団の尊厳性を侵害し、△公論の場に参加する実質的な機会を奪い、公的な討論の場を歪曲し、多様性を本質とする民主的な価値を毀損し、△差別的な社会構造を拡大・再生産することで社会の統合を阻害する。

■嫌悪表現には身振り、記号、絵なども含まれる:
嫌悪表現は標的となる集団に関する否定的な観念や偏見を込めているすべての表現を指す。ここには言葉や文章だけでなく、身振りや無視、沈黙などの行為、記号や絵なども含まれる。セウォル号事件の際に、断食闘争をしていた人々の前で食事する「食事闘争」を行ったことや、ブラジルのサッカー選手を猿と卑下しバナナを投げ込んだヨー六版の観衆の行為は代表的いな嫌悪表現だ。

嫌悪表現は否定的な観念や偏見から生まれるが、「障がい者は善良だ」、「黒人は身体能力に秀でている」など肯定的な固定観念も当事者にとっては嫌悪表現になり得ることに留意する。

2.私たちは家父長制、レッドコンプレックス、地域主義のような統治手段として利用されてきた観念を、当然な「社会倫理」と置き換えたり、「美徳」として扱いません。

■既存秩序の維持手段として悪用されてきた嫌悪表現:
外見と身体、年齢によって女性の「商品価値」を決め、女性を男性の性的な道具として描写することは、長年行われてきた嫌悪表現だ。嫌悪表現は国民を訓育・統制したり、政治的な反対者を排除し、無力化するイデオロギーとして利用されたりもする。

特定の人物や集団に対し、レッドコンプレックスの烙印を押したり(アカ、従北)、特定の地域住民を卑下する表現(ホンオ、全羅ディアン)は、長い間独裁政府が煽り立ててきた嫌悪表現であるため止める必要がある。こうした嫌悪表現について何ら問題提起をしない場合、ややもすると社会が嫌悪表現を容認しているという間違った信号を送ることになるため、メディアは積極的に対応しなければならない。

3.私たちは性的少数者、移住民、難民、北朝鮮離脱住民(脱北者)など社会的な少数者を、劣った存在と規定し、偏見を拡散させたり、彼らが危険を引き起こすであろうと恐怖を煽り、彼らを社会から排除する嫌悪表現に積極的に対応します。

■社会の不平等が深まることで拡散する嫌悪表現:
社会・経済的な不平等現象が深まることで拡散される嫌悪の流れがある。「同性愛がエイズを誘発する」といったものや、「難民のために犯罪が増えた」など、社会的な少数者のために多数の国民が損を負い、苦痛を受けることになるからと、彼らを社会から排除または追放すべきという論理につながりもする。「移住民が雇用を奪い、脱北者が財政をひっ迫させる」という主張が代表的だ。

差別を是正するための国家の措置を「逆差別」と罵倒しながら、女性や障がい者に対する嫌悪を拡散させたりもする。メディアに従事する者は、彼らに対する嫌悪と敵対感が表出される現象そのものを伝えるのではなく、人権の観点から解釈した後で伝えなければならない。

4.私たちは主要な政治家、高位公務員、宗教指導者など、社会的な影響力が大きい人が行う嫌悪表現を、より厳格かつ批判的に見ます。

■政治家・宗教家など有名人の嫌悪表現はより危険:
政治家による障がい者を卑下する差別発言が問題となっている。嫌悪表現を行う人物が社会でどんな位置と地位にあるのかは、嫌悪表現の害悪を判断する際に最も重要に確認しなければならない要素だ。

同じ嫌悪表現でも、有力な政治家や宗教指導者など社会的な影響力が大きい人物が話す場合、聴衆に大きな影響を与え、分裂と葛藤を深める憂慮があるため、より強力な対応が必要だ。

■大部分の「放言」は嫌悪表現:
政治的な利益のために、わざと嫌悪表現を使う場合もある。一部の政治家が学校の非正規雇用の給食労働者のストライキの際、「飯を作る近所のおばさん」と言ったり、「外国人労働者は韓国に寄与するものがないので、内国人よりも低い賃金を支給すべき」といった嫌悪表現がそれに当たる。

「軍隊内の同性愛が国防力を弱める」といったものや、「エイズ患者のために財政が枯渇する」など、性的少数者に対する政治家の嫌悪表現も同様だ。メディアに従事する者は、政治家の意図的な嫌悪表現をそのまま中継するのではなく、その背景と脈絡を把握し、批判的に伝えることが望ましい。

5.私たちはフェイクニュースや歪曲された情報に基づく嫌悪表現は、徹底したファクトチェックを通じ批判的に伝えます。

■虚偽にねつ造された情報により増幅する嫌悪表現:
嫌悪表現は虚偽にねつ造された情報を通じ拡散する。こうした場合、嫌悪表現は学問的な見解や科学的な証拠、事実報道の外形を整えたりもするし、学問的・政治的な論争の形にすり替えられることもある。統計や写真のように客観的な形式を取ったり、一目見ては中立的に見える表現を使うこともある。こうした資料の歪曲は、「5.18(光州民主化運動)北朝鮮軍介入説」や、日本軍性奴隷問題など歴史歪曲でよく現れる。

客観的な証拠として提示された資料も、検証されない資料を巧妙に配列したり、偏向した情報を無理に膨らませた場合が多い。こうした歪曲および虚偽のねつ造は、対象となる集団を劣ったり非正常的な存在として扱う人種主義、地域主義、性差別主義、外国人嫌悪症、同性愛嫌悪症から由来する場合が多い。メディアに従事する者は、こうした虚偽にねつ造された情報および歪曲された情報を慎重に、綿密にチェックした後で伝えなければならない。

6.私たちは経済的な不況、犯罪、災難、伝染病などが発生した場合、嫌悪表現が多く発生する点を理解し、人権の側面からより綿密に確認し、伝えます。

■嫌悪表現と不況・災難の責任転嫁:
災難と疾病など不幸な事件が起きる時、嫌悪表現はより頻繁に登場する。不幸の原因を別の集団に負わせ生け贄にしようとするからだ。関東大震災の際に、日本人が在日朝鮮人たちを多く虐殺したのが代表的な事例であるが、韓国でも似たようなことがあった。

2019年6月、赤い水道水の原因がイスラム教徒によるものだというメディアの報道があった。こうした根拠のない嫌悪表現をそのまま報道することは、「彼らが危険な集団であるため、彼らの人権を制約することが必要だ」という主張を正当化し、対象となる集団に対する暴力の名分として利用される危険もある。

メディアに従事する者は、彼らに対する嫌悪と敵対現象を単純に伝えるのではなく、社会的な紛争の原因が特定の集団に転嫁されている点を認識し、批判的に解釈して伝えなければならない。

7.私たちは「5.18民主化運動」を歪曲し、日帝による強制占領期を賞賛し、日本軍性奴隷被害者を侮辱するなど、歴史的な事実を否定する発言と研究などを嫌悪表現とみて、これを指摘します。

■歴史的な事実の否定と歪曲も嫌悪表現:
歴史を否定する表現は、単純な歴史的な事実の否定ではなく、社会的少数者集団に対する差別を先導する嫌悪表現だ。人倫に反する犯罪の対象になる大部分の集団は社会的な少数者であり、これに対する嫌悪、差別、暴力が累積し集団虐殺にまで発展した場合が多い。

こうした脈絡から人倫に反する犯罪を否定することは、人倫に反する犯罪を正当化したり、その対象となった社会的な少数者の集団に対する差別を正当化することにつながる可能性がある。実際にドイツなどヨーロッパでは、ホロコーストなどの人倫に反する犯罪と重大な人権侵害事件に関する歴史的な真実を否認・歪曲することは、歴史否定表現として処罰される。

2020年1月16日
韓国記者協会・放送記者連合会・韓国インターネット記者協会・韓国プロデューサー連合会・韓国アナウンサー連合会・韓国放送作家協会・インフルエンサー経済産業協会・全国言論労働組合・民主言論市民連合・国家人権委員会

 


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