「コロナ対策に100兆ウォン」...野党に大物登板で韓国総選挙もいよいよ本番
「コロナ対策に100兆ウォン」...野党に大物登板で韓国総選挙もいよいよ本番
  • 徐台教(ソ・テギョ) 記者
  • 承認 2020.03.30 14:00
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4月15日の総選挙において、「文政権の審判」を掲げる第一野党で旧与党の未来統合党。その選対委員長に就任した金鐘仁氏が経済政策に言及した。

29日午後、未来統合党の金鐘仁(キム・ジョンイン)総括選対委員長は国会で記者会見を開いた。

「非常経済対策」と名付けられたこの会見で同氏は、「野党の勝利、国民の勝利を達成する。国会議席の過半政党を作り、6月の国会開始ひと月の間にコロナ非常経済対策を完結させ提示する」と訴えた。

今回の選挙に参加しないと見られていた金鐘仁氏の登場で、選挙はいよいよ本番となる見通しだ。

29日、会見する金鐘仁(キム・ジョンイン)未来統合党統括選対委員長。同党HPより。
29日、会見する金鐘仁(キム・ジョンイン)未来統合党統括選対委員長。同党HPより。

金鐘仁氏とは

日本ではあまり馴染みがないかもしれないが、韓国で金鐘仁氏と言えば知らない人はいない政治家の一人に挙げられる。

著名な独立運動家で弁護士、韓国の初代大法院長(最高裁判所長)金炳魯(キム・ビョンロ、1888〜1964)を祖父に持つ家で1940年に生まれた同氏は、ドイツで経済学博士を取得し、33歳で西江大学の経済学部教授となる。

1981年には保守政党・民主正義党の国会議員となり、盧泰愚政権(ノ・テウ、1988~1993)では保健社会部(現・保健福祉部)長官や経済主席秘書官を務めた。国会議員には5度当選、政治歴は40年近い大ベテランだ。

金氏と言えば、「経済民主化」という言葉が付いて回る。1987年10月29日に公布された現行の憲法で、経済秩序の基本を定めた119条にはこうある。
 

(1)大韓民国の経済秩序は個人と企業の経済上の自由と創意を尊重することを基本とする。

(2)国家は均衡ある国民経済の成長および安定と、適正な所得の分配を維持し、市場の支配と経済力の乱発を防止し、経済主体間の調和を通じた経済の民主化のために、経済に関する規制と調整を行うことができる。


この内、第二項が意味するものは一般的に、自由経済の下では広がる他にない格差を是正し、特定の企業による市場支配に介入し、社会保障制度を整備するということだ。これをもって「民主福祉国家への理想を追求しているもの」と解釈する向きもある(『今ふたたび憲法』ロゴポリス、2016)。

そして当時、この条文を作成したのが金鐘仁氏だと自他ともに認めている。この「経済民主化」という言葉は、格差が広がり続け、財閥企業による市場を占有しようとする行為が頻発する韓国で大きな共感を得ている。

金氏の特徴はこうした広い視野やバランス感覚にある。そして過去、これを選挙に大いに活用してきた。

2012年の大統領選挙をたたかうセヌリ党の朴槿恵(パク・クネ)氏が経済民主化公約を掲げることを助言し、朴氏が「開発独裁を敷いた朴正熙大統領の娘」というイメージを脱却するのに貢献し、当選に寄与した。

さらに2016年4月の前回総選挙時には、文在寅議員(現大統領)によって、現与党・共に民主党の選挙対策委員長となり辣腕を振るった。結果、同党は総選挙で議席数1位となる勝利を手にした。

このような経歴から金氏には「キングメーカー」という評価もついて回る。今回の総選挙に当たっては、新生政党『時代転換』に力を貸す素振りを見せたが、結局、野党第一党で次回2022年の大統領選挙で政権奪回をねらう未来統合党に参加することとなった。

30日、国会で握手する金鐘仁氏(右)と元駐英北朝鮮公使で未来統合党候補のテ・グミン(テ・ヨンホ)氏。金氏は以前、テ氏公認を「あり得ないこと」と強く批判していたが、仲直りとなった。同党HPより。
30日、国会で握手する金鐘仁氏(右)と元駐英北朝鮮公使で未来統合党候補のテ・グミン(テ・ヨンホ)氏。金氏は以前、テ氏公認を「あり得ないこと」と強く批判していたが、仲直りとなった。同党HPより。

「国家予算を変更し財源確保を」

金鐘仁委員長は29日、「非常経済対策」という会見名に沿った主張をした。

同氏はまず、新型コロナウイルスと闘う医療人やボランティアに感謝の言葉を述べると共に、注文増加による過重業務が続く配送業の人々や、客足減少に悩む自営業者にいたわりの言葉をかけた。

そして、「韓国がコロナ自体にこれ位対処できているのは、過去70年間、私たちが共に積み重ねてきた国家の力量のため」とし、「今の政府が自画自賛するいかなる理由もないし、そんな時期でもない」と政府をけん制した。

また、「コロナで死ぬか飢え死にするか、どちらも同じ」という市中に出回る言葉を引用し、「コロナの非常経済対策はまず、小企業と自営業者そしてそこで働く労働者の賃金を、直接に/即時に/持続的に、災難が終わるまで補填していくことに合わせる必要がある」と主張した。

さらにこれを実現するための方法も提示した。

金氏は、「今のような状況では512兆ウォン(約45兆円)の国家予算のほとんどが使えずに残る。政府と国会は迅速に今年の予算の20%程度の規模の項目を変更し、コロナ非常対策の予算に転換し、まずは100兆ウォン(約8兆7000億円)規模の財源を確保すべき」と述べた。

また、「このために総選挙直後に今期の国会で臨時国会を開き、憲法56、57条で規定している予算再構成を終わらせるべき」と訴え、「企画財政部もこれをすぐに準備するよう望む」とした。

続いて「非常経済状況は年末まで続く可能性もある。満期となる社債が4月だけで6兆ウォン(約5200億円)規模であり、年末までは50兆ウォン(約4兆4000億円)を超える。信用保証基金を拡大するなどの方式でより多くの銀行が社債を引受できるようにすべき」とした。また、国債の発行も主張した。

その上で金氏は、「未来統合党の総括選対委員長として、野党の勝利、国民の勝利を成し遂げる。国会の議席の過半政党を作り、6月の開院国会ひと月以内に、コロナ非常経済対策を完結させ提示する」と明かし、「『これ以上生きていけない、ひっくり返そう』というのが民心だ」とした。

ソウル汝矣島にある韓国国会。今年1月、筆者撮影。
ソウル汝矣島にある韓国国会。今年1月、筆者撮影。

「悲惨な」韓国総選挙は政策中心へ

韓国の総選挙は、昨年12月の選挙制度改定により、「準連動型比例代表制」が導入された。これは小さな政党の国会進出を助け、多党制への政治発展を見越したものだったが、現実は正反対となってしまった。

議席数のロスを抑えるために、与党・共に民主党は共に市民党を、第一野党の未来統合党は未来韓国党という衛星政党を作り、新しい選挙制度の意義をないがしろにしたからだ。多党制への移行どころか、既存の二大政党によるほぼ総取りの可能性まである有様だ。

新型コロナウイルス感染症拡大が続く中、韓国政治は衛星政党と離合集散を繰り返す政党をめぐるゴタゴタがここ一か月以上続き、何ら生産的な声を発せずにいた。

それが4月2日の選挙運動開始を控え、大物の金鐘仁氏が登場することにより、政策中心の議論へと発展するかどうかが見どころだ。

見てきたように、金鐘仁氏の登板により韓国の総選挙は役者が揃った。だが、惜しむらくはその役者たちは「いつもの役者」であって、新しい時代の選挙ではまったくないということだ。候補者の80.9%が男性で、平均年齢は55歳にのぼる。

金氏は今年3月に出版した回顧録『永遠の権力はない』で「私は国民の前に、二度謝罪をしなければならない。一つは朴槿恵政府が生まれるようにしたことで、もう一つは文在寅政府が生まれるようにしたことだ」と書いた。

この両勢力は韓国政治の90%以上を占める勢力である。金氏の主張を額面通りに受け入れるとしても、三度目がうまく行く保証はどこにもないと思ってしまうのが人情だ。

新型コロナが主要な議題をかっさらう中、4月15日に今後4年の韓国政治を左右する国会議員300人が決まる。
 


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