投票間近の韓国総選挙が抱える「重大な問題」...'権力山分け’への懸念
投票間近の韓国総選挙が抱える「重大な問題」...'権力山分け’への懸念
  • 徐台教(ソ・テギョ) 記者
  • 承認 2020.04.11 19:51
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投票日が4日後に迫った韓国総選挙。情勢は与党有利で固まった感がある。「無難で保守的な選挙」という表現がぴったりな今回の選挙だが、それだけでよいのか。余り語られない争点を探った。

投票日が4日後に迫った韓国総選挙。情勢は与党有利で固まった感がある。「無難で保守的な選挙」という表現がぴったりな今回の選挙だが、それだけでよいのか。余り語られない争点を探った。

演説する与党・共に民主党の李洛淵候補。選対委員長も務める。同氏ツイッターより引用
演説する与党・共に民主党の李洛淵候補。選対委員長も務める。同氏ツイッターより引用

●票読みは難航

4年に一度の総選挙は、国会議員300人の総入れ替えが行われることから、韓国では大統領選挙に継ぐ大イベントだ。

それだけに韓国メディアでは既に多くの報道がされ、分析も出尽くした感がある。また、事前投票も昨日10日・今日11日と行われている。11日午後4時の時点で約23%の有権者がこれに参加しており、すでに総選挙は本番だ。

票読みも盛んに行われている。韓国は公職選挙法にしたがい、9日午前0時から15日午後6時まで世論調査結果の発表が禁止される(8日までに調査したものはずっと使える)。とはいえ、9日の韓国各紙では、具体的な数字予想を控えている様がありありと見と取れる。

理由は二つある。一つは複雑な選挙制度だ。昨年12月に選挙法が改定され「準連動型比例代表制」が導入された。これは得票率によって議席を公平に振り分けるという名目で導入されたが、比例47議席のうち30議席に適用されることとなった。

この選挙制度では韓国政界を二分する与党「共に民主党」と第一野党「未来統合党」といった巨大政党が従来のように小選挙区と比例双方で戦う場合と、比例だけの「衛星政党」を作り小選挙区と比例を別々の党で戦う場合、後者の方が議席数が多くなる。

この「裏技」の存在は選挙法改定案が議論されていた昨夏から指摘されていたが、先に野党「未来統合党」が衛星政党を作ったことで、与党「共に民主党」も同じ行動を取るに至った。

さらに与党系では「開かれた民主党」も後追いで結党された上に、群小比例政党も乱立しており、各党の得票率がどうなるか読みづらい。

昨年4月、選挙法改定に反対し国会を徹夜で封鎖した自由韓国党(現・未来統合党)。筆者撮影。
昨年4月、選挙法改定に反対し国会を徹夜で封鎖した自由韓国党(現・未来統合党)。筆者撮影。

二つ目は世論調査の信頼度だ。韓国では50歳を境目に年配層ほど保守派支持が多くなり、下の世代ほど進歩(革新)派支持が多くなる。このため、世論調査では在宅率が高い年配層が多い有線電話と、それ以外に届く無線電話(携帯電話)の割合が大切とされる。

だが実際は、携帯電話は回答率が低く世論調査に不向きとされ、有線電話の比率が高くなる傾向があった。これを補完するため18年2月から「安心番号」制度が導入された。

これにより、世論調査会社は携帯電話会社から世論調査を行うごとに生成される「安心番号」を利用でき、回答率や信頼度が上がると見込まれた。

しかし、こうしたテコ入れにも未だに世論調査の信頼度は「参考程度」という見方が少なくない。今回の世論調査でも実際に、調査機関によって同じ選挙区でも結果が異なるケースが散見される。

韓国紙『京郷新聞』はさらに「15~20万人程度の小さい(地域)単位での調査に変数が多い」と分析している。2016年の前回総選挙の世論調査は「大外れ」に終わった過去もあり、差が顕著な地域以外での予想は簡単ではない。

●それでも与党優勢は動かず

とはいえ、与党優勢は動かないというのが大勢の見方だ。

○与党系は二重構造

進歩派政党の位置づけ。筆者作成。
進歩派政党の位置づけ。筆者作成。

この場合の与党とは、小選挙区のみに候補を立てた「共に民主党」と比例政党「共に市民党」となる。共に民主党のイ・ヘチャン代表は9日、「小選挙区は残る期間に最善を尽くせば130議席以上、共に市民党が比例で17議席を取れば第一党は間違いない」と党員向けメッセージで明かしている。

慎重な態度を見せるが「うまく行けば『単独過半数』もある」(与党関係者)という予想だ。さらに与党には上乗せがある。「開かれた民主党」の存在だ。

「共に民主党」はあくまで「共に市民党」を正式なパートナーとし、「開かれた民主党」への投票を勧めていない。だが比例専門の「開かれた民主党」には、ネットを中心に熱心な与党支持者が投票を呼びかけている。

理由は「文在寅大統領への、そして党への忠誠心」だ。

群小政党代表や民主党色の少ない候補が比例上位に交ざる「共に市民党」よりも、昨年夏のいわゆるチョ・グク長官任命をめぐる混乱の中で、積極的にチョ氏擁護に動いた人材が目立つ「開かれた民主党」を盛り立てようとする動きだ。

同党の予想議席は最大で10議席ほどと見られている。与党系合計で160議席まであり得るという見方も可能となる。

○第一野党・未来統合党は

保守派政党の位置づけ。筆者作成。
保守派政党の位置づけ。筆者作成。

一方、「未来統合党」の選挙戦の指揮を取る金鐘仁(キム・ジョンイン)総括選対委員長は8日、「未来統合党が今回の選挙で確実な過半数を取れると確信する」と述べた。

さらに「過去、大統領の任期末に実施された総選挙が6度あったが、一度を除いては与党が勝ったことがない」と自信を見せた。

この場合の「過半数」とは「未来統合党」と「未来韓国党」の二党を合わせた数値を指す。だが現実的な票読みとしては「小選挙区120議席前後、比例最大で18議席程度」(群小政党関係者)といった数値が出てきている。

ある与党関係者は9日、筆者にこう説明した。

「選挙結果の注目ポイントは、汎進歩系が汎保守系にどれだけの議席数の差をつけて勝利するかだ。その差が10議席台なのか、20議席台に届くか。20台になる場合、今後の国会運営はかなり与党有利になる」。

実際に世論調査の結果でも、与党有利は動かない。

『韓国ギャラップ』社が10日に発表したデータによると、文在寅大統領の職務遂行評価(支持率)で肯定評価は57%、否定評価35%となっている。政党支持率でも「共に民主党」44%、「未来統合党」23%と大きく差がついている。

●新型コロナがもたらす「静かな選挙」

今回の総選挙における最大の伏兵は、言うまでもなく新型コロナウイルス感染症の拡散だった。大きく四つの影響をもたらした。

一つ目は、報道への影響だった。新型コロナへの危機感が韓国で急速に高まったのは2月20日を過ぎて、大邱(テグ)市や慶尚北道地域での感染爆発が起きてからだった。

それから約一か月の間、メディアの報道はコロナ一色になった。そしてその傍らで行われた総選挙報道も、選挙の争点といった政策ではなく、前述したような比例政党の離合集散の話題を伝えるに留まった。

これにより、群小政党が掲げる韓国社会の革新に向けたメッセージがマスに伝わる機会が失われた。

二つ目は、投票行動への影響だ。新型コロナによる選挙報道の減少に加え、コミュニティ活動の低下、集団を集める演説の自粛など選挙活動の縮小により、候補者を選択する基準が「保守的(新しくない意)」になった。

韓国の中央選管が今月2日、発表した世論調査結果によると、候補を選ぶ際に考慮する点として「所属政党」が29.0%で上位に入った。これは前回2016年の選挙時の16%と比べると大きく増えている。「人物/能力」との答えも前回の35.1%から29.8%に減った。

10日、マスク・手袋を着用し事前投票に臨む文在寅大統領。青瓦台提供。
10日、マスク・手袋を着用し事前投票に臨む文在寅大統領。青瓦台提供。

三つ目は、投票率への影響だ。新型コロナは年配の人々に感染する際、致命的となり得る。現在、韓国では新規確診者(検査陽性者)が過去3日間40人以下にまで抑えられ小康状態を保っているとはいえ、投票所にはたくさんの人が集まることもあり、年配層の投票率への影響が見込まれている。

年配層の投票率は保守政党の得票率に直結する。一方で、今回の投票率は50%前半にとどまるとの見方が多い。全体の投票率が下がる場合、保守政党に有利という過去のデータもある。こうした相反する点がどんな結果をもたらすかは未知数だ。

最後の四つ目は、これまで挙げた三つの要素から導き出される、巨大両政党の「静かな選挙戦略」だ。前出の与党関係者はこう語る。「今回は与党も野党も『優勢』とメディアに書かれることを嫌う。余計な波風は立てずに、取れる議席を静かに取るという選挙戦といえる」。

これは言い換えれば「支持層拡大よりも支持層結集を目指す選挙戦」を意味する。過去の選挙戦で優勢な地域をしっかりと確保することを狙う、変化のない選挙であることを示している。

●「権力の山分け」への危機感

今回の選挙は、5月で任期5年のうち丸3年を終える文在寅政権の中間評価として、さらに2年後に迫る大統領選挙の風読みとしても大事な意味を持つ選挙だった。野党は「政権審判」を、与党は「朴槿惠(パク・クネ)弾劾を総括できない野党の審判」を訴えた。

だがさらにもう一つ、見逃せない争点があった。

それは過去に朴槿惠前大統領をかついだ旧与党(未来統合党系)が大幅に支持を失い、新しい政治地形が現れるかもしれないという韓国政治のドラスティックな「更新」への期待だった。

具体的には今の与党が実際の政策の通り「中道」を占め、空いた左側(左派)の空間に、リベラルな進歩政党が躍進すると共に、環境や基本所得(ベーシック・インカム)、女性の権利保障などのワンイシュー政党も議席を確保する「多党性かつ多様な」韓国政治へと様変わりする未来図だった。

これは言い換えれば「反共」で分かれてきた韓国社会・韓国政治が、市民8割の「ひっくり返そう」という声が現実化した2016,7年の「キャンドルデモ」を経て、「社会問題」で争う新たなパラダイムを形成できるか否かの見極めとなる選挙だったことを示す。

2016年冬、数週間にわたり100万人の市民がソウル都心の目抜き通りを埋めた。16年11月、筆者撮影。
2016年冬、数週間にわたり100万人の市民がソウル都心の目抜き通りを埋めた。16年11月、筆者撮影。

だが、それも議席を失いたくないエゴによる衛星政党の結成、新型コロナの混乱に便乗した安易な選挙といった、巨大両政党の不誠実な態度により台無しとなった。

筆者は与党は韓国政治の発展のために「耐えるべき」だったと考える(未来統合党と共に民主党どちらに責任があるのかの判断は投票結果が語るだろう)。

さらにメディアの体力の限界もあり、群小政党が持つ様々な問題意識が表に出ないまま、無難な選挙が行われようとしている。

先に挙げた議席予想によっては、与党系150、未来統合党系140といった数字もあり得る。この数字は、韓国政治が多様性とは真逆の巨大な二政党による「権力の山分け」構造に陥る危険性を大きくはらんでいる。

もちろん結果を見るまでは分からない。ただ、筆者には異様なまでの失望感がある。

市民には外出自粛や「社会的距離戦略(ソーシャル・ディスタンシング)」を呼びかけておきながら、自身たちは全国を練り歩き素手での握手、抱擁、マスクなしでの挨拶や写真撮影を繰り返す政治家たちの姿。

筆者はこれを見ながら「市民にはルールを守ることを強調し、自身たちは常にルールをないがしろににする韓国の巨大政党の政治家の姿勢は、昔も今も何も変わっていない」と怒りを覚えた。

国会議員全員を選び直す総選挙。これが定評ある韓国民主主義の凋落の始まりにならないよう願いつつ、筆者はこれから事前投票に向かう。