[趙眞九コラム] 韓日歴史和解のための提言
[趙眞九コラム] 韓日歴史和解のための提言
  • The New Stance編集部
  • 承認 2020.10.01 11:03
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菅内閣が発足して約二週間。少しずつその方向性が見え始めているが、懸案の日韓関係はどこに向かうのか。日韓双方の立場をよく知る韓国の専門家によるコラムを紹介する。9月25日付で韓国『亜洲経済』掲載されたコラムを、同紙の許可の下、本誌が翻訳した。

著者:趙眞九(チョ・ジング)。慶南大学校極東問題研究所助教授。同研究所日本センター長。専門は東アジア国際政治。

[趙眞九コラム] 韓日歴史和解のための提言

9月16日、菅義偉氏が日本の第99代総理大臣に就任した。7年8か月の間、官房長官として歴代最長任期の安倍総理を補佐した菅総理は、20人の閣僚のうち、茂木敏充外相をはじめ11人を安倍前内閣の閣僚から任命した。その上に安倍路線を継承する意志を明かしており、期待と憂慮が交差している。

文在寅大統領は同日に菅総理に送った祝賀メッセージの中で、「基本的価値と戦略的利益を共有」する「最も近い親友」である日本政府と対話する準備ができていると関係改善の意志を明かした。これに対する返信の中で菅総理は、「未来志向的な日韓両国関係構築」への期待を表明した。

また、24日に実現した初の首脳間の電話会談で菅総理は、強制徴用問題と関連する既存の立場を固守しながら、日韓関係を「健全な関係に戻すためのきっかけ」を韓国政府が作ってくれることを要請した。昨年12月、15か月ぶりに開かれた韓日首脳会談を除くと、2019年と今年は電話会談すら無かったが、中国の習近平国家主席よりも文大統領との電話会談が先に行われた点は肯定的に捉えられる。しかし、「戦後最悪」の韓日関係を放置せず、1ミリでも前進させるための心の準備が両首脳にあるようには見えない。

最大の懸案である強制徴用問題の解決なくして韓日関係の改善は不可能だが、筆者の目にはこの問題の解決可能性はほとんどない。ある片方が相手の主張を受け入れてこそ合意となるが、韓国と日本でどんな政権が誕生してもこうはならないからだ。国内政治も外交も国民的な支持なくして成立しないが、韓日どちらの国民も自国の譲歩を認めないだろう。

さらに三権分立を尊重する民主主義国家の韓国と日本の司法府は、植民地支配の違法性についての認識や、法による被害者救済の可能性に関し相反する立場にある。つまり、日本の最高裁判所は植民地支配の合法性を前提に、日韓間の請求権問題は1965年の日韓基本条約と請求権協定で解決したという立場である。反面、韓国の大法院は、植民地支配は違法であり被害者の慰謝料請求権は韓日請求権協定に含まれていないため、日本企業は加害者に賠償しなければならないと判決を下した。

強制徴用被害者の請求権の問題は、両国政府を当事者にするものではなく個人と企業の間に提起された問題だった。強制徴用問題は1965年の請求権協定で解決されたというのが日本政府と最高裁判所の立場であった。しかし、2012年5月24日に韓国大法院が植民地支配の合法性を前提にした日本の判決は韓国の憲法的価値に反するとし、初めて個人の請求権が消滅していないという判決を下し、これが2018年10月に最終的に確認されたのだ。

個人と企業の民事訴訟であるため、加害企業が被害者に賠償すれば終わるものと考えることもできる。だが、問題の解決を難しくした二つの要因があった。一つは大法院判決後、別の強制徴用被害者たちが日本企業を相手に集団訴訟を提起する可能性が高まったという点だ。もう一つは植民地支配の違法性をめぐる両国の立場が根本的に異なるため、日本企業の賠償は植民地支配の違法性を認めることになり、日本政府としてはこれを放置できなかったという点だ。

慶南大学校極東問題研究所助教授。同研究所日本センター長。専門は東アジア国際政治。
慶南大学校極東問題研究所助教授。同研究所日本センター長。専門は東アジア国際政治。

ならば、どんな形での解決方式が可能だろうか?1965年6月22日に締結された日韓基本条約で強制併合条約の無効時点を明確にしないまま「すでに無効(already null and void)」と確認したような方式で政治的な妥協を模索することが唯一の解決策といえる。しかし、今の韓国社会がこれを受け入れる可能性はない。

1972年9月29日、中国政府は日本との国交正常化に合意しながら発表した共同声明において「両国国民の友好のために日本に対する戦争賠償請求の放棄」を宣言したが、この条項を根拠に日本の最高裁判所は2007年4月27日、中国政府と国民が日本政府と国民、法人を相手に被害賠償を請求できないと判決した。

注目すべきは、最高裁判所が中国人被害者の精神的・肉体的苦痛がとても大きかったという点を考慮し、判決が当事者間の自発的な解決を妨害するものではないと付け加えた点だ。これにより加害企業の西松建設は強制労働に対する歴史的な責任を認め謝罪し、2009年10月、被害者と遺族360人に2億5000万円(一人当たり約70万円)を支給し、記念碑を建立することに合意する「和解」が成立した。

2016年6月1日には、三菱マテリアル(旧三菱鉱業)も歴史的な責任を認め謝罪し、その証拠として生存被害者3765人に一人当たり10万元(約170万円)の慰労金の支給と、記念碑建立などを行う条件で和解が成立した。1945年8月まで日本に連行され強制労働に動員された中国人が約3万9000人に達した点を考慮すれば今後、類似した訴訟が起きる可能性は残っている。

一部では中国と韓国に対する日本側の異なる態度が、韓国を無視するものだとする批判もある。だが、植民地支配と戦争をめぐる韓日および中日間の処理方式が異なる点を考慮する必要がある。

8月4日、韓国の裁判所は差し押さえた日本企業の資産売却が可能になるよう公示送達手続きを終えた。実際に現金化が実行されるまでの時間が両国政府に与えられたと見ることができるが、双方がこれまでの立場を損ねずに合意できる現実的な方案は見当たらない。

こうした点を踏まえ、筆者なりの解決策を提案したい。植民地支配の違法性に関しては残念ながら国際社会にまだ一致した見解が存在しない。可能な限り早い時期に首脳会談を開催し、韓・日両国間に歴史認識の差が存在することを率直に認め、この問題の解決を未来の世代の知恵に任せることを両国の国民に公開的に呼びかけなければならない。

これを前提に裁判所が資産差し押さえを解除する代わりに、日本企業は責任を認め謝罪および賠償を通じた被害者側との和解を模索し、両国政府はこうした努力を支援し評価すると同時に、真相究明のための資料と情報の共有などの協力を確認し、韓国政府が歴史和解基金か財団を設立し被害者を救済する。

被害者救済のために設立される基金か財団に日本政府や企業、国民たちが自発的に参加するならば、両国国民の間に横たわる心の壁を壊し、真の和解を実現する助けとなるだろう。

朝鮮半島と日本の地政学的要因に加え、激化する米中の葛藤を考慮する場合、両国が共有すべき「戦略的利益」と未来のビジョンを協議し、両国の国民に説明し理解を求める事こそが両国の指導者に与えられた責務である。そうしてこそ和解と未来志向の道を開くことができる。
 


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