「検察改革か、権力の暴走か」…文政権に集まる批判の読み解き方
「検察改革か、権力の暴走か」…文政権に集まる批判の読み解き方
  • 徐台教(ソ・テギョ) 記者
  • 承認 2020.12.02 18:30
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韓国で連日大きく報じられている文政権と検察の対立。これを「検察改革に向けた政権側の努力と検察の拒否反応」と見るか「政権中枢への捜査を嫌がる政権による検察叩き」と見るかで、韓国世論は割れている。優勢なのは後者だ。
19年7月25日、尹錫悦検察総長(右)を任命した直後の文在寅大統領。写真は青瓦台提供。
19年7月25日、尹錫悦検察総長(右)を任命した直後の文在寅大統領。写真は青瓦台提供。

●「職務停止」から舞い戻った尹検察総長

「このように業務に早く復帰できるように迅速な決定を下してくれた司法部に感謝します」

「すべての方達に、大韓民国の公職者として憲法精神と法治主義を守るために最善を尽くすことを約束します」

1日午後、ソウル行政裁判所は「防御権を付与する手続きを経るべき」という理由で、尹検察総長が申請した職務停止措置の執行停止を求める仮処分申請を認容した。

これを受け、同日夕刻にソウル市内の大検察庁庁舎に「復帰」した尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長は、集まった報道陣を前に語気を強め冒頭の発言を行った。韓国の法治主義を守る最後の砦が自分である、とでも言わんばかりの内容だ。

矛先は先月24日に自身の職務を停止させた秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官に向いていたが、そのさらに先、文在寅(ムン・ジェイン)大統領を射程に入れていたように筆者には思えた。

韓国で今年1年間続いてきた、秋法務部長官と尹検察総長の対立は噴火寸前といった感がある。筆者は事の本質について、「『検察改革』を進めたい文在寅政権と、それを拒否する検察という構図がある」と11月30日の記事で書いた。

検察vs文政権…韓国で起きている’大バトル’の本質は「検察改革」めぐる天王山
https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20201130-00210273/

とはいえ、この記事一本ですべて説明できるほど、今の韓国で起きている事態は単純ではない。

上記記事では日本ではほとんど知られていない内容、つまり「検察改革」という韓国の民主化における重要な課題について説明することに重点を置いたため、事を進める中で文政権が直面している逆風については多く触れなかった。本記事ではこの点について書いてみる。

●秋法務部長官の「四面楚歌」

現状を判断するに、秋長官の旗色が悪いように見える。特に、検察をはじめ法曹界からの反発が強い。

平検事、つまり一般の検事は先月25日から27日まで、秋長官の職務停止命令に反発し全国の地方検察庁で会議を開いた。30日までに全国に59か所ある地方検察庁と支庁に所属する1789人の平検事すべてが、今回の秋長官の決定に対し反対する声明に同調した。

反対の内容は大きく二つだ。

まず、秋長官の決定は「政権の意思に反して事件を処理しようとしたため、(来年7月まで)任期が残る検察総長を業務から排除するものと疑われる」というもの。検察改革といった高尚な目的でなく、文在寅政権が権力を維持するための「追い出し」という論理だ。

もう一つは「今回の決定は、疑惑に対する充分な調査と当事者(検察総長)の疎明(説明)機会が保障されず、性急に行われた。これは憲法上の適法な手続きの原則を損ねた」というものだ。「突発的で根拠不十分かつ乱暴」とでも言い換えられる指摘だ。

さらに1日に開かれた法務部の監察委員会でも「秋美愛法務部長官による尹錫悦検察総長に対する懲戒請求、職務停止、捜査依頼はすべて不適切だ」という結果が満場一致で出た。

理由は「懲戒および監察対象者(尹検察総長)に懲戒事由を知らせず、疎明する機会を与えないなど手続きの重大な欠陥がある」というものだ(いずれも文面は韓国紙による)。

監察委員会にはロースクールの教授や元メディア代表など外部の人士も含まれており、彼らが秋長官に批判的な点は、韓国内の文政権のやり方に対する否定的な世論を反映しているようにも見える。

一方、職務に復帰した尹総長も「反撃」の兆しを見せている。大検察庁の人権政策官室が同じ大検察庁の監察部への捜査を開始している。これは秋美愛長官が先月、自身の腹心がいる監察部に直接、尹総長を監査するよう命令をくだした行為が「法務部長官は具体的な事件に対しては検察総長だけを指揮・監督する」という検察庁法を違反するものであるのかの捜査だ。

秋長官の数少ない腹心の検事たちも検事内から批判の的になっており、秋長官の劣勢は明らかだ。韓国メディアYTNは2日、「秋長官は四面楚歌」と表現した。

●秋長官を守る与党、弱点も

だが、秋長官には力強い援軍がいる。それは韓国の国会議員全議席300のうち178議席を持つ与党・共に民主党だ。与党は先月24日の秋長官の「職務停止」会見以降、連日、秋長官をサポートする論評やコメント出している。

一例を挙げよう。2日、同党のホ・ヨン報道官は書面ブリーフィングで、「尹総長は憲法の価値を毀損し、果敢な政治的な歩みを行う自身の行為を省みることを願う」とその姿勢を批判すると共に「法を武器とした検察の根深い優越意識と特権意識をもう終わらせなければならない」とプレッシャーをかけた。

また、李洛淵(イ・ナギョン)代表はやはり2日、「検察改革は放棄することも、妥協することもできない絶体絶命の課題だ。長い歳月の間に何度も挫折したが、これ以上は挫折できない国民の熱望だ」とし、「検察改革が一部の抵抗や政争により遅れるならば、国民のためにも国家のためにも不幸なことだ」、「私たちは決然とした意志で検察改革を続ける」と述べた。

与党はまた、SNSを通じ露骨に尹総長の辞任を促している。だが、こうした党を挙げての尹総長への攻撃が、韓国社会には逆効果となっている側面がある。

それは、文政権が抱える「弱み」への言及がないためだ。その正体は大きく以下の三つの問題において、尹検察総長による積極的な追及を止めさせたいのではないか、という疑惑だ。

・蔚山市長選挙への介入:18年6月の蔚山(ウルサン)市長選挙の際、文大統領の知人である宋哲鎬(ソン・チョルホ)氏を当選させるため、青瓦台(大統領府)が積極的に介入したという疑惑。ライバル候補に対し強制捜査を行い、別の候補にも懐柔工作をしかけ、結果、宋氏が当選したというものだ。今年1月、就任したばかりの秋長官は、この件を捜査する検察の捜査団を異動させる「介入」を行ったが、尹総長は捜査を続けさせ、1月29日に関連する13人を起訴した。

・原発「月城1号」閉鎖問題への介入:文大統領の公約の一つである「原発ゼロ」に合わせるために、1983年に稼働を始めた「月城1号機」の経済性をわざと低く見積もり、閉鎖の必要性を説く活動を産業通商資源部と政府機関の韓国水力原子力が行ったというもの。監査院が今年10月20日、監査結果を発表し、これを受け検察は11月5日に両機関を強制捜査した。秋長官は「政策決定過程の問題」とし、「政府を攻撃し揺さぶろうと偏った過剰な捜査」と尹総長を非難した。

・「ライム」「オプティマス」ファンドへの関与:この2つのファンドは、投資者に多大な損失を与えた。その被害規模は『朝鮮日報』によると、「ライム」で4000人に約1600億円、「オプティマス」は1100人に約500億円とされる。いずれの件にも青瓦台(大統領府)の一部人士、一部部署さらに政府機関の関与が疑われているが、秋長官が就任後、捜査団を解散させるなど、捜査を縮小させようとしている疑惑が持たれている。

一方的な姿勢が逆に、何かを隠したい「後ろめたさ」を感じさせている。

●「生きている権力への捜査」

文在寅大統領は19年7月25日、検察総長に就任する尹錫悦氏に任命状を渡す際、「青瓦台でも政府でもまたは与党であろうが万が一、権力型の非理(法律違反)があるならば、その点に関しては本当に厳正な姿勢で臨んでくれることを願う」と語った。

今、文在寅政権を批判する人々は、尹総長が文大統領この言葉を忠実に実行しようと積極的な捜査意志を見せているのにもかかわらず、文政権は逆に尹総長を追い出そうとしていると見ている。「言行不一致」ということだ。

さらに政治談話を好む韓国社会ではこんな話もまことしやかに語られる。文政権は「検察改革」の看板を掲げる陰で文政権への致命傷を防ぎ、来年4月のソウル・釜山(プサン)両市長の補欠選挙、さらに再来年3月の大統領選挙に勝って、「政権再創出」を行うロードマップを持っている、というものだ。

このように、今の文政権を批判する材料は、見方によっては揃っている状態だ。疑惑を捜査し、非理があれば起訴する検察の仕事をさせてあげればよい。

だが、「はいそうですか」といかないのが韓国政治だ。

前回の記事で筆者が触れたように、検察への信頼度は非常に低い。今年10月29日に大法院(最高裁判所)で懲役17年が確定した李明博(イ・ミョンバク、在職08年2月~13年2月)元大統領のケースを見てもそれは明らかだ。

同氏の嫌疑は、自動車会社DASの資金横領やサムスングループからの収賄などだったが、核心には過去に大規模な詐欺事件を巻き起こしたBBKという投資会社と同氏がどんな関係であるかという部分があった。2007年、初めてこの疑惑が関係者から提起された当時、李明博氏はハンナラ党の有力な大統領候補だった(のちに当選)が、検察により「嫌疑なし」とされた。

その同じ疑惑が今回、有罪と確定したため、韓国メディアでは検察の「ダブルスタンダード」に注目が集まっている。当時、李明博氏は文字通り「生きている権力」であったため、検察が屈したという見方だ。「政治検察」という言葉を想起させる出来事だった。

さらに尹錫悦検察総長の傲岸不遜な態度もやり玉に挙がっている。10月の大検察庁に対する国政監査の際に、態勢を崩し憮然とした表情で与党議員の質問に答える姿は、韓国の最強集団の長そのものであり、生粋の「検察主義者」とされる尹総長の姿を強く印象付けた。

●目的が手段を正当化できるか

見てきたように、一連の出来事をどう眺めるのかによって韓国市民の対応は大きく分かれる。

「今の政府のやり方は強引で手続きを無視しすぎているし、権力への捜査を嫌がる側面がありありと出ている」という文政権批判派と、「尹総長の態度から始まる一連の状況がすべて検察改革の喫緊さを物語っている」という文政権支持派に分かれている。

そして、これは保守派、進歩派と韓国社会が二分されている中で、陣営論の色合いを強く帯びている。それは尹検察総長が次期大統領選挙の候補として、トップを伺う位置につけている世論調査の結果を見てもよく分かる。検察の肩を保守派が持ち、政府の肩を進歩派が持っている。

こんな「究極の選択」に近い状況が続いているが、繰り返してきたように、旗色は今のところ文政権と秋長官が悪いように見える。

だが、「検察改革」は青瓦台(大統領府)-法務部-与党が団結したところに着実に行われている。巨大与党に突破力のある秋長官、さらに「すべての公職者は『先公後私』の姿勢を」(11月30日)とした文大統領が加われば、これを止める力は存在しない。

来たる4日の懲戒委員会の結果により、尹総長がみずから身を引く可能性も残るし、文大統領が解任を決める可能性もある。9日の国会で、「高位公職者犯罪捜査処」の設置を確実にする法案が成立すれば、検察権力は歴史の転換点に立つことになる。

改革の苦しみなのか、はたまた検察への弾圧なのか。まさに「検察」と「文政権」が正面から衝突する手に汗にぎる展開となっている。まるでドラマの一幕のようだが、どんな結果になっても小さくない傷が韓国社会に残るだろう。

だが一つ言えるのは、韓国の市民は多大な関心を持ってこの問題を見守っているということだ。どう判断するかは、今後の選挙結果が物語ることになるだろう。


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