
●事件の渦中でのインタビュー
韓国紙『朝鮮日報』は6日、「張惠英『30代女性議員に非敬語の日常…国会、韓国で最も遅れた所』」という記事を掲載した。
張議員は、昨年4月の総選挙で比例当選した初当選議員。名門大学を中退後、発達障害を持つ妹を施設から連れ出し17年ぶりに共に暮らす過程をドキュメンタリーとして公開するなど、社会的弱者への共感が非常に高い評価を受けている人物だ。韓国の進歩派を代表し、テレビ討論番組への出演も多い。
記事によると、インタビューが行われたのは1月19日とのこと。正義党代表の金鐘哲(キム・ジョンチョル、50)からセクシャルハラスメント被害に遭ったのが15日であり、張議員がこの事実を党関係者に打ち明けた18日から1日が経った時点でのものだ。
記事を書いた同紙のキム・ミリ記者はインタビューを公開した理由について、「苦心の末にインタビューを掲載する。事件を直接言及しなかったが『私にとって日常は政治の最前線』と強調した張議員が、インタビューの中で重い話を遠回しに表現したことを遅まきながら感知できたため」と記事中で明かしている。
なお、先月25日に正義党がセクシャルハラスメント事件の存在を正式に公開して以降、党紀委員会を経て金代表は同党を除名となった。
この過程で張議員は心境を詳細に明かす声明文を出しているが、「被害者らしさ」や「被害者らしく振る舞うこと」を正面から否定したこの文章は、大きな共感を韓国社会に呼んでいる。本紙『ニュースタンス』の下記記事で全文日本語訳が読める。また、張議員は金前代表を告訴しないことに決めた。
左派政党・正義党代表が同党女性議員へのセクシャルハラスメントで解任
https://www.thenewstance.com/news/articleView.html?idxno=2973
前述したように、今回のインタビューで張議員はセクシャルハラスメント事件に触れていない。インタビューには張議員と後援会長のイ・スラ(29)作家が答えている。イ氏は2018年の「日刊イ・スラ」の発行で知られると同時に、現在は出版社の経営も行う新進気鋭の作家だ。張議員とイ氏は、2020年の張議員の活動報告書を共に執筆している。
●韓国政治に厳しい指摘
本記事ではキム記者によるいくつかの質問を整理する。キム記者は二人に対し「言葉に非常に鋭敏であるように思える」と質問を投げかけた。これに対し張議員は「文章を書くことは葛藤を緊張を表面化するため、ある意味で非常に政治的なことだ」としている。
さらに「直接経験した韓国政治の言葉はどうか」という質問に、張議員は「判で押したような同じ言葉を使う。(中略)政治家たちは自身の志向しようとするものに向かって絶え間なく自身の言語をみがき、人々により良く伝える方法について悩まなければならないのに、敵味方を分け、相手をより効果的に攻撃することに最適化された言語を探すようで失望している」と答えた。
キム記者はまた「議員たちが(張議員に)敬語を使わないと(活動報告書に)書かれている」と投げかけた。これに張議員は「本当にたくさん(非敬語を)聞いた。カメラが回っていない所では皆が非敬語を交ぜて話す」と答えた。
少し解説すると、韓国語では年上の人物が年下の人物に対し、自然と非敬語(パンマルを「タメ口」と訳すのは乱暴だ)で話すことが多い。だが、最近ではひと言断りを入れて、非敬語を使う場合が多い。一方、社会人同士ではいくら年齢差があっても公式な場所では当然、互いに丁寧語を使う。張議員はこうした常識に照らし合わせた発言をしていると見られる。
張議員はまた「経路依存性がすさまじい。国会が韓国社会で最も遅れた場所のようだ」と述べている。’経路依存性’とは本来、社会の様々な分野における決定が過去の影響を受けることを指すものだが、同記事では「一度決めた経路に依存し抜け出せない性質」とこれを解説している。この場合には「過去を踏襲する」といった意味合いだろう。
キム記者はさらに「国会で若い女性議員として半年近く過ごして、どうだったか」と聞いた。
張議員はこれに対し、「私が独立的に考え笑わずに意見を表明することを、相手が悪い気分で受け止める場合が多かった。『青年らしく』が重要なようだ。低姿勢で『先輩〜、私は何も分からないので教えてください〜』と言うのを望んでいる。意見が衝突する場合には、這いつくばることを望む。韓国政治は新しいものを望むとしながらも、見慣れないものを不快に思う。初期の頃は陰で『何も分からない(国会議員になる)資格も持たない奴が入ってきて、ああやって振る舞っている』とコソコソ噂するのが耳に入ってきた。6か月ほど経つと『自分が一番だと思っている』というものに変わっていた」と、国会の素顔を明かしている。
また、補佐陣のうち最も国会でのキャリアが長い人物が聞かせてくれた話として、以下のように語った。「私の名前で報道資料が出る瞬間、おかしなコメントで間違いを指摘しようとする場合が多いという。似たような事案を扱う男性議員や中堅の女性議員には手を出さないのに、少数政党所属かつ、青年女性政治家にあてはめるフレーム(枠組み、韓国ではレッテルの意味でも使われる)があるようだ」。
「政治の役割は何か」を聞くキム記者に対し、張議員は次のように答えている。
「政治を始める際に『貧しくて、病にかかり、学べなかった人たちにも平等に保障される未来を持ちたい』と語った。不平等という観点から見る場合、未来が開いていると考える人と全ては既に決まっていると考える人、何もしなくてもよい時間を持つ人と何かを絶え間なくしなければいけない人との間の格差がますます広がっている。人々が自身の運命を決められる可能性を少しでも守る政治をしたい」
『朝鮮日報』の記事全文は以下のリンクから読める(韓国語)
장혜영 “30대 여의원에 반말 일쑤... 국회, 한국서 가장 뒤처진 곳”
https://www.chosun.com/national/weekend/2021/02/06/MBADZIDZYVHFXFYKH6UKDXZ4JU/