
●約540万円の未払い
今月9日、韓国・京畿道(キョンギド)水原(スウォン)地方裁判所は、竜仁(ヨンイン)市でバイキングレストランを運営していたA氏に対し無罪を宣告した。
事情はこうだ。A氏は昨年3月、新型コロナの大流行のさなか、レストランの廃業を決めた。当時、複数の人間が同じトングなどを使い回すバイキングレストランは、新型コロナウイルスを拡散させるとして営業停止となっていた時期だ。
A氏は廃業を決め、職員たちに「新型コロナのために店を閉める」と告げ、事前通告がないまま職員たちは解雇された。
この課程でA氏は職員9人に対し賃金約3300万ウォン(約312万円)と解雇予告手当(雇用者が勤労者を即時解雇する場合に支給すべき30日分以上の通常賃金)約2400万ウォン(約227万円)を支給しなかったとし、職員たちにより訴えられていた。
裁判の争点は、新型コロナウイルス感染症の拡散という事態が、勤労基準法(日本の労働基準法にあたる)上における、賃金および退職金などを期日内に支給する義務を違反する罪の「責任阻却事由」に該当するのか、という点だった。これが認められる場合、刑事責任が成立しないことになる。
水原地裁のキム・ドゥホン判事は裁判で「昨年2月18日から大邱(テグ)・慶尚北道地域で『新天地』信徒を中心に大量の新型コロナ確診者(感染者)が発生し始めた」とし、「防疫当局は同じ月の24日、感染病危機警報を『深刻』段階に引き上げた」と指摘した。
韓国第三の都市・大邱市では当時、2月18日からわずか3週間で5000人以上が新型コロナに感染する非常事態となっていた。これに伴い、韓国政府は危機警報を最大レベルに引き上げ、現在まで続く政府の総力体制を構築した。
キム判事はさらに「新型コロナ拡散への憂慮のため、バイキング関連の業種の売上が急減したが、被告(A氏)も同様に営業に大きな困難を受け、3月に廃業申告をし、裁判所に破産申請をした」と事情を説明した。
そして「被告人としては、新型コロナの拡散という天災またはやむを得ない自由により、経営上の困難に直面し、賃金を支払えなかった不可避の事情があったと判断できる」とし、「これは勤労基準法違反の点に関する責任阻却事由に該当するものと見える」と判示した。
今回の判決が今後、類似する訴訟にどのような影響を及ぼすのか注目される。