[コラム] 英国とフランス政府の’良心‘を問う(鄭旭湜)
[コラム] 英国とフランス政府の’良心‘を問う(鄭旭湜)
  • The New Stance編集部
  • 承認 2021.03.30 14:06
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(編集部)25日に短距離弾道ミサイル2発を発射した北朝鮮。米国をはじめとする国際社会の批判が高まるや、これに対し「二重基準」(28日、北朝鮮外務省国際機構局長の談話)と反論している。それはどういう意味なのか。韓国で著名な在野の北朝鮮研究者であり平和運動家である鄭旭湜(チョン・ウクシク)平和ネットワーク代表が、韓国のオンラインメディア『プレシアン』に寄稿したコラムを正式な承諾を得て掲載する。

“われわれの核兵器増強は、敵対国の最悪の脅威から安全保障を守るための究極的な保障策だ”

北朝鮮政府の発表に読めるかもしれないが、英国のドミニク・ラーブ外相の発言だ。ボリス・ジョンソン政府は最近「競争時代のグローバル英国」という報告書の中で、トライデント潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に装着される核弾頭の数を、現在の180個から260個に増やすという内容も含めた。冒頭のラーブの発言はこれに対する批判に回答したものだ。

英国は当初、2020年代中盤まで、核武器の保有量を10%ほど減らす計画だった。しかしこれを覆し、40%程度増やすと発表したのだった。挙げ句の果てには敵対国による化学兵器・生物兵器の使用やサイバー攻撃時には核兵器で報復できるという立場も明かした。

これを受け英国内部でも批判の声が出てきている。緑の党のある議員は「挑発的で不法的で、資源の深刻な浪費」と指摘し、スコットランド国民党は「児童貧困の解決に使われるべき貴重な資源の浪費」と批判したと、米紙『ワシントン・ポスト』が3月16日に報じた。

核実験におけるフランス当局の隠ぺいも話題となった。3月9日に英国『BBC』は、フランスが1960年代と90年代に太平洋で行った核実験により、現地の住民約11万人が被爆していたと明かしている。これは06年にフランス原子力委員会が発表したものよりも、最大で10倍多いものだ。しかし現在まで、被爆者のうち補償を受けた人物は63人に過ぎないと同紙は報じている。

この両国をはじめとする5大核保有国の「ダブルスタンダード」は、今になって始まったものではない。代表的なものに、95年の国連安保理決議がある。当時、核兵器不拡散条約(NPT)を無期限延長するか否かをめぐって、核保有国は安保理決議を通じ核軍縮と非核国家に対する核兵器の不使用および不威嚇を約束した。非核国家を説得し、NPTを無期限延長するためだった。

しかしその後、核保有国は自らの約束を守らなかった。逆に核兵器の現代化と核兵器使用のハードルを下げようとする姿を見せてきた。これは明らかに、自らが作った安保理決議に背くものだ。

韓国のNGO『平和ネットワーク』の鄭旭湜(チョン・ウクシク)代表。本人提供。
韓国のNGO『平和ネットワーク』の鄭旭湜(チョン・ウクシク)代表。本人提供。

それにもかかわらず、安保理常任理事国である英仏は最近、北朝鮮の短距離弾道ミサイルの発射を糾弾しながら安保理会議の招集を要求した。これにより3月30日に非公開で安保理会議が開かれる見通しと海外メディアは伝えている。これを受け北朝鮮の外務省は「二重基準」を問題視しながら、強力な対応を警告している。朝鮮半島情勢の悪化が憂慮される訳だ。

北朝鮮の弾道ミサイル発射が安保理決議を違反するものであるため、安保理会議の招集を要求することはできる。しかしこれが現実的・道徳的な権威を持つためには、常任理事国が率先して模範となる姿を見せるべきだ。先に紹介したような英仏のやり方は、これとは遙か遠い所に位置している。

また、安保理常任理事国が自ら作った決議を守らないのならば、安保理北朝鮮決議を“排撃”してきた北朝鮮を安保理に付託することが公正なのかという根本的な疑問も持たざるを得ない。

北朝鮮の言動の肩を持とうというものではない。逆に強大国による「ダブルスタンダード」が北朝鮮の憂慮すべき行動を煽っているのではないかを指摘しようとするものだ。より重要な点として、安保理理事国がそれほどまで憂慮する北朝鮮核問題を解決するため、果たすべき役割は何かという質問を投げかけてみようというものだ。

安保理は北朝鮮が弾道ミサイルを試験発射し、核実験を行う度に習慣的に安保理を召集し糾弾し制裁を科してきた。しかしその結果は逆に、北朝鮮の核とミサイル増強をもたらした。こんな事情ならば、これからは変わるべきではないだろうか。

険悪な表情で北朝鮮に指を向ける前に、自身は安保理決議をどれだけ遵守してきたのかを自問すべきではないだろうか。核兵器を良いものと悪いものに分ける「ダブルスタンダード」こそ、核不拡散のもっとも大きな障害物だという指摘を噛みしめるべきではないか?(了)

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著者紹介:鄭旭湜(チョン・ウクシク)
。1972年生まれ。韓国のNGO『平和ネットワーク』代表。高麗大学政治外交学科を卒業後、北韓大学院大学で軍事・安保専攻で北韓学修士。99年に「平和軍縮を通じ韓半島の住民が人間らしい生活を送れるようにする」ため、同団体を設立し、今まで代表を務める。盧武鉉政権時の大統領引受委員会で統一・外交・安保諮問委員を歴任。「言葉と刀」、「MD本色」、「核の世界史」、「韓半島シナリオ」、「非核化の最後」など著書多数。


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