[全訳] 尹錫悦次期大統領の外交・安保公約 (2)国益優先の外交
[全訳] 尹錫悦次期大統領の外交・安保公約 (2)国益優先の外交
  • 徐台教(ソ・テギョ) 記者
  • 承認 2022.03.16 17:26
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3月9日の大統領選挙で当選した尹錫悦(ユン・ソクヨル、61)氏。同氏は現在、5月10日の就任に向け、政権引き継ぎ委員会の発足を急いでいる。そんな尹氏が大統領選の際に掲げた外交・安全保障分野での公約を全訳する。出典は国民の力の『中央公約政策集』。

全4編の記事の二本目は、「国益優先の外交」と名付けられた部分を訳した。全10項目に及ぶ、韓国の今後の外交政策の根幹が詳細に記されている。

なお、朝鮮民主主義人民共和国、いわゆる北朝鮮の表記は原文の「北韓」のままにした。
3月10日、日本の岸田文雄首相と電話会談を行う尹錫悦次期大統領。国民の力提供。
3月10日、日本の岸田文雄首相と電話会談を行う尹錫悦次期大統領。国民の力提供。

●国益優先の外交

(1)韓米の包括的戦略同盟の強化。
(2)相互尊重に基づく韓中関係の具現。
(3)韓日「金大中ー小渕宣言2.0時代」の実現。
(4)韓露協力の未来の地平を拡大。
(5)地域別に特化したグローバル協力ネットワークの構築。
(6)経済安保外交の積極推進。
(7)国務総理直属の新興安保委員会(ESC)設置。
(8)国の格に見合ったグローバル寄与外交の実践。
(9)在外同胞庁の新設。
(10)サイバー安保システムの構築。

以下は詳細となる。

●(1)米韓同盟を再建し、「包括的戦略同盟」を強化します。

現在
▶韓米間の信頼低下、調整不足で諸般の政策に関する異見と疎通の不在が露呈。
▶対北イベント中心のアプローチで、対北政策の本質が損なわれ、同盟間の対北政策共調が悪化。
▶北韓の顔色をうかがうことで米韓連合の防衛態勢が弱まる事態を招いた。

約束
▶弱まった連合防衛体制を再建し、北韓の核に対する米韓の拡張抑制(拡大抑止)を強化する。
—同盟自体の必要と判断による連合訓練実施により、北核の脅威に対する確固とした抑止力の確保および拡張抑制効果を極大化。

▶米韓「包括的戦略同盟」の強化。
—同盟間の信頼回復により、私たちの国益とグローバルな役割を拡大する基盤を構築。
—自由民主主義の価値を土台に、アジア太平洋地域とグローバル秩序の未来ビジョンを共に設計。
—ニューフロンティア分野(新技術、グローバルサプライチェーン、宇宙、サイバー、原子炉など)の協力を拡大し深めていく。

▶域内の関連国が共にする開かれた協力を追求。
―クアッド(米国・日本・豪州・インド4か国協議隊)傘下のワクチン・気候変動・新技術ワーキンググループに参加し、機能的な協力を行いながら、今後正式な加入を模索する漸進的なアプローチを追求。

●(2)相互尊重に基づく韓中関係を具現します。

現在
▶文在寅政府の過度の理念偏向外交により、米韓同盟と韓米日安保協力構造が弱まった。
▶米中の葛藤と対立が深まり、バイデン米政府の中国に対するけん制強化により、「経済は中国、安保は米国」または「戦略的なあいまい性」という外交の基調はこれ以上維持することが難しい状況。
▶第一の貿易対象国であり、北核・ミサイル問題の解決などにおいて、主要な利害関係国である中国と一定水準の協力を維持・発展させる必要がある。

約束
▶尊重と協力に基づく中国外交の具現
—韓中首脳間の訪問を実現。
—経済、公衆保健、気候変動、pm10/2.5、文化交流などを中心に韓中協力を拡大し深めていく。

▶韓中間の既存の協力基調の忠実な稼働と、内実のある運営を通じ、北核問題を含めた懸案と潜在的な葛藤要因を効果的に管理。
—韓国の国家安保室長および中国の外交担当国務委員の高位級戦略対話の定例化。
—外交長官の年例交換訪問、外交次官の戦略対話を年2回開催。
—外交・国防2+2次官級戦略対話を忠実に履行。

▶韓中高位級(高官級)ホットラインの設置。
—非常状況の発生時に迅速で効果的に対応。

●(3)韓日「金大中−小渕宣言2.0時代」を実現します。

現在
▶韓日関係が過去事(過去の出来事)イシューに埋没したまま、懸案を解決するための政策的な努力が無いまま悪化の一途が続いている。
▶韓日関係が戦略的な協力、地域および超国境イシューへの協力機会を喪失したまま漂流している。
▶過去事に足元を縛られ、未来の世代のための韓日関係のアップグレードを疎かにした。

約束
▶正しい歴史認識を下に、未来志向的な韓日の協力関係を構築。
−韓日関係の未来像を包括的に提示した金大中−小渕宣言(※)の基本精神と趣旨を発展的に継承。
※1998年「21世紀の新たな韓日パートナーシップ共同宣言」

▶韓日首脳間のシャトル外交の復元、高位級協議チャンネルの稼働で、諸般の懸案の包括的解決を追求。
—韓日の未来志向的な協力要件が成熟する時に、「金大中—小渕宣言2.0時代」の青写真を提示。

▶過去事・主権問題は堂々とした立場を堅持。
▶未来世代を中心に、両国氏民官の開かれた交流を拡大。

●(4)韓露協力の未来の地平を拡大します。

現在
▶韓露間の全般的な協力低下により関係発展の動力を喪失。
—非核化努力がないまま、南北露鉄道連結など三角協力に執着。
▶文在寅政府は北核問題を米北(米朝)協議に任せながら、傍観者的な態度で一貫し、北核および北韓に関連する韓露韓の政策・情報協力が不足。

約束
▶韓露関係全般の活気と動力を回復し、両者間の協力を活性化。
—両国間で推進可能な作業から実施しながら、韓半島の未来協力を高めて行く。
—青年、人文、文化交流の拡大を促進。

▶投資および交易拡大のための高位級協議体稼働を通じ、互恵的な事業を発掘。
▶医療、観光など新規協力分野の育成および支援。
▶北核問題に関する韓露間の情報・政策協力の復旧および活性化。

●(5)地域別に特化したグローバル協力ネットワークを構築します。

現在
▶その間、対外関係が主要国と両者関係に偏った状況が続いている。
—世界10位圏の経済大国の国際的な位相に鑑み、協力対象地域の多弁化、多者・少多者形態の協力ネットワークの構築および先導的役割の不足。
—中国に代わる未来の市場である東南アジア・インドに対する積極的な外交地平の拡大が必要。

約束
▶韓国・ASEAN「相生連帯構想」を推進し、インド・太平洋地域へと外交の地平を拡大。
—韓国・ASEANのABCD戦略(※)を推進。
—新種の伝染病の拡散に対する域内の効果的な対応体制を構築し、情報通信技術(ICT)の発展に伴うデジタルインフラの拡張を先導し、東アジア広域共同体を構築。
※ABCD戦略:人的資本交流の活性化(Advance human capital)、保健医療協力の増進(Build health security)、双方向の文化交流の実現(Connect cultures)、デジタルアジアの具現(Digitize Asian infrastructure)。

▶欧州国家との国際規範の確立および人権増進のための「価値外交パートナーシップ」を構築。
—新産業、気候変化への対応、尖端(先端)科学技術分野など協力の大幅な拡大。

▶中東・アフリカ・中南米・中央アジア地域の国家別、地域別のカスタマイズ型の協力プログラムを推進。
—資源・エネルギー供給網を確保し、交易・消費市場の拡大と新規開発需要を発掘。

●(6)経済安保外交を積極的に推進します。

現在
▶米中競争および新型コロナの大流行の中で、自国中心主義が深まっている。
▶供給網、貿易・投資、データ安保の具現が必要。
—[供給網]核心戦略物資の供給網の多弁化および安全網の構築。
—[貿易・投資]企業の競争力を堤高および投資活動支援と核心技術の海外流出を防止。
—[データ]ビッグデータの体系的で安全な管理システムを構築。
▶尖端科学技術ネットワークの拡充および新成長産業の支援が必要。

約束
▶源泉技術を最も多く保有した米国、日本、欧州国家と協力システムを構築。
—韓国の核心製造技術(例:半導体、バッテリー)を経済安保外交のテコとして活用。
—米国と経済・安保2+2会議、(韓日関係の改善を前提に)韓米日経済・安保2+2+2長官(外交、経済長官)会議を推進。

▶中国と高官級戦略対話、外交長官会議、次官級戦略対話などを活用し、戦略物資の需給協議の活性化。
▶クアッド(Quad)のワクチン、気候変化、新技術ワーキンググループに本格的に参加し、韓・クアッドネットワークの構築の土台として活用。

▶域内の主要貿易協定(インド・太平洋経済フレームワーク[Indo-pacific Economic Framework]、包括的・漸進的環太平洋経済同伴者協定[CPTPP]、域内包括的経済同伴者協定[RCEP])などを通じ、韓国企業がグローバルサプライチェーン、デジタル貿易などの分野で有利な立地を占められるように支援。
▶国家首脳間の「経済戦略対話」の活性化。
—主要経済ネットワークと公益、投資およびインフラ事業への進出促進および高官級専門担当特使制度の運営。

●(7)国務総理直属の新興安保委員会(ESC)を設置し、国家安保システムを強化します。

現在
▶気候変化、環境悪化、感染病、麻薬流入、新興技術など、諸般の新興安保におけるチャレンジと脅威は、その複合的な性格により発生時に様々な政府組織や部署が連関し責任の所在が不分明となり対応するための力量が不足。

約束
▶融合的な思考を持ち、多様な新興安保チャレンジに効果的に対処できるメカニズムを構築。
▶国務総理の傘下に新興安保専門家で構成された「新興安保委員会(Emerging Security Commission;ESC)を設置し、部署別の新興安保への対応を調整し支援する役割を付与する(国務調整室長と民間専門家が共同委員長の役割を遂行)。
—北核および軍事脅威に関連する伝統安保は大統領室が、新興安保は国務調整室が担当する安保対応システムを構築し、「小さな青瓦台」と「責任総理制」を具現。

●(8)国の格に見合ったグローバル寄与外交を実践します。

現在
▶世界10位圏の経済大国である大韓民国の多者外交の比重や公的開発援助(ODA)の規模が、先進国の水準に足りていない実情。
—グローバル外交のリーダーとしての役割と、ODA供与水準(GNI0.15%)が大きく不足。

約束
▶多者外交でのリーダーシップを拡大し、開放的・包容的な国際秩序の構築に先導的な役割を遂行。
—次期安保理非常任理事国(2024年〜2025年)受任を通じ、国際社会の平和・安定に寄与し、自由民主主義、人権、法治など普遍的な価値を具現。

▶グローバル気候変化外交を強化し、グローバルな生態系の保存とグリーン経済の活性化という二つの目標を共に追求。
—2050炭素中立目標の実現のため、国際社会と協力を拡大。

▶経済面での位相に合った先進国型の公的開発援助(ODA)を遂行することで、国の格の高揚と国連の持続可能開発目標(SDGs)達成に呼応。
▶保健安保、食糧安保、テロリズム、国連平和維持活動の分野で、人間を重視する「人間の安全保障(human security)」を増進するリーダーシップの具現。

●(9)在外同胞庁を新たに設置します。

現在
▶全世界の在外同胞数が約732万人(2020年基準)に増加し、専門に担当する政府機構の設置が必要。
—在外同胞の居住国内の地位向上、在外同胞企業人・商工人たちの力量の増大にしたがい、本国と在外同胞社会の連携強化の必要性が増大。
—在外国民の権益向上と保護に対する国民的な要求および期待水準が上昇。

▶在外同胞関連業務が、外交部、法務部、教育部、行政安全部など様々な部署に散在し、体系的、効率的な支援を疎外。
▶海外出国者が2011年に1200万人に到達した後、2019年には約2800万人(約133%増加)を超えながら、在外国民に関する事件・自己も約191%増加(年平均15%上昇)。
—新型コロナパンデミックの持続により、▲帰国支援、▲防疫物品の支援、▲応急医療支援など以前とは異なる類型の在外国民保護の需要が発生。

約束
▶既存の在外同胞財団を吸収し「在外同胞庁」を設立。
▶世界韓商大会および世界韓人貿易協会(ワールドオクタ)ネットワーク、海外有数の同胞企業との連携、国内の中小企業と青年マンパワーの海外進出を支援。

▶在外同胞の権益伸長のための実質的な政策を推進。
—在外同胞の投票参加率を高める方案の作成。
—在外同胞の韓国語、国史、文化教育の支援を拡大し、地域・分野・世代別の韓民族ネットワークを強化。
—尖端未来産業分野の在外同胞の国内就業および投資支援と、関連制度の整備。
—海外養子縁組同胞の母国との絆を強化など。

●(10)サイバー安全保障脅威への対処能力を高めます。

現在
▶サイバー安保は安保・経済・政治・社会安全(犯罪)が重なる超国境的な事案であるため、関連機関・企業および外国との情報の共有と協力が重要。
—韓国は北韓の集中的なサイバー攻撃の脅威に露出されているため、対応システムの完備が特に重要。
▶それにもかかわらず、韓国の現在の対応システムは国家情報院、科学技術部、外交部、国防部、警察などに文節化しており、情報の共有と協力を通じた総合的な対応が困難で、専門のマンパワーも不足した状況。

約束
▶国家の次元での一元化されたサイバー対応システムの構築。
—国家サイバー安全保障の対応システムの構築および民・官・軍の統合対応体制の強化・サイバー安保基本計画、遂行システムと活動方式などを具体化。
—「サイバー安保基本法(制定)」、「統合防衛法(改定)」。

▶サイバー保安人材の養成。
—不法的なサイバー攻撃に対し実質的な防衛が可能な実践型の人材の養成。
—政府が全国の地域別に正規課程(大学・大学院)および特殊課程(情報保護特性化大学、融合保安大学院)の拡大と地域別の情報保護教育センターの設立などを積極的に支援。

▶サイバー安保技術の発展および企業支援のためのサイバー安全保障の生態系を造成。
▶国際サイバー協力ネットワークの構築に積極的に参加。
—サイバー犯罪の被害を減らすために「ブダペストサイバー犯罪協約」に加入。
—ランサムウェアに対処するため、米国が構成している「ランサムウェア対応イニシアティブ(CRI:Counter Ransomware Initiative)」に積極的に参加。
—同盟および友好国とサイバー安保の情報共有を拡大し、トレーニング派遣、サイバー合同訓練など国際サーバー協力を強化。

▶サイバー分野の武器体系および支援システムの迅速な戦力化を推進。
 


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