5月14日早朝、北朝鮮がミサイル「火星12号」の発射実験を行った。4500キロに及ぶ飛行距離を持つ新型ミサイル実験により明らかになったのは、今後予想される青瓦台(大統領府)と自由韓国党の軋轢だった。(ソウル=徐台教)
ミサイルはIRBMとの見方
まずは韓国国防部や日韓メディアの発表により、これまで明らかになっている「火星12号」の性能について見てみる。同ミサイルは5月14日午前5時27分、平安北道亀城(クソン)市の方峴飛行場から発射された。
高角度で打ち上げられた同ミサイルは、ロフテッド軌道を描き最高高度2111.5キロメートルに達する一方、787キロメートルを飛び、日本海上の日本の排他的経済水域(EEZ)の外側に落下した。最大飛距離は4000~5000キロに達することから「中距離弾道ミサイル(IRBM)」と見られている。
さらに17日付けの韓国紙・中央日報は韓国の情報当局者を引用し「大気圏再突入技術に大幅な進捗が見られる」とした。「北朝鮮の朝鮮中央通信が15日に公開した映像の中のモニターに飛行時間を示す30分11秒の文字が見えた」ことから、「ミサイル弾頭部に内蔵されたテレメーター(遠隔測定装置)が、大気圏再突入後の摂氏5000度に達する高温に耐えた」と評価できるとのことだった。

各党の反応は「北を糾弾、政府は厳重な対応を」
文在寅(ムン・ジェイン)新大統領の就任4日目に起きた今回にミサイル発射実験に、韓国の各政党は一斉に反発する一方、政府の厳重な対応を望んだ。
与党・共に民主党の尹官石(ユン・グァンソク)主席報道官は14日の声明で「北朝鮮は国際社会の一致した要求を無視し挑発を繰り返す場合、強力な応酬を免れない」とする一方、文大統領に対しては「すぐさま国家安全保障会議(NSC)を招集するなど素早く対応している」と評価しつつ「国民の安保不安の解消のために最善を尽くすよう」求めた。
第二野党・国民の党も14日、高蓮浩(コ・ヨノ)主席報道官が「北朝鮮は無謀な挑発を止め、朝鮮半島の平和の道に乗り出すよう」声明を通じ伝え、政府に対しては「厳重な対策」を求めた。
また、15日の院内対策会議の席で朱昇鎔(チュ・スンヨン)代表代行が「青瓦台(大統領府)は外交安保の参謀陣を迅速に構成し、空白を最小化させ北朝鮮リスクを管理するよう」求める一方で「強い安保に基づく朝鮮半島の平和定着のためには、いつでも政府に協力することを約束する」ことを表明した。
第三野党・正しい政党は14日、吳晨煥(オ・シンファン)報道官が「北朝鮮の持続的で意図的な弾道ミサイルの挑発を強く糾弾する」論評を発表した。この中で文大統領に対し「戦略的曖昧性を捨て、明確な立場を明かすことを望む」とし「交渉人としての能力を見せるべきだ」と要求した。
第四野党・正義党は14日、秋惠仙(チュ・ヘソン)報道官が記者会見を行い「北朝鮮のミサイル発射は、国連安保理の(制裁)違反であるばかりか、朝鮮半島の平和を脅かす行為であり、強く糾弾する」と述べた。
さらに「北朝鮮がこれ以上の武力挑発を中断し、せっかく訪れた対話の場に出てくることを真に望む」とした上で、発射当日、分単位で事態の経過を国民に明かした文大統領に「とても印象的」と高い評価を与えた。
また、15日には沈相奵(シム・サンジョン)代表が同党の常務委員会の席で「朝鮮半島は新しい局面に入った」と発言した。さらに文大統領に対し「周辺国と緊密に協力しつつも、朝鮮半島の問題で韓国が発言権を取り戻す安保外交を行うことをお願いする」とした。

自由韓国党の対応は異例の「文叩き」メイン
際立ったのが、第一野党・自由韓国党の対応だった。同党は批判の矛先を北朝鮮よりも文在寅大統領へと向けた。
14日に鄭濬吉(チョン・ジュンギル)報道官名で「文在寅政府が発足したからと、北朝鮮が核とミサイルに対する立場を変えないことを象徴的に示す事件だ」と今回のミサイル発射を位置付け、「文大統領は北朝鮮が変わるという幻想を捨てて、北朝鮮を直視すべき」と指摘した。
その上で「THAAD(高高度ミサイル防衛システム)配置問題における不確実な立場を早急に整理し、内部の葛藤と論争を終息させよ」と要求した。
続く16日にはやはり鄭報道官の名で、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」が15日に配信した記事の一部にある「(核・ミサイル問題は)我々と米国の間で論じる問題であり、傀儡(かいらい、韓国を指す)が口を挟むべきでない」という語句を引用し、「文政権の幻想を打ち砕くもの」とする論評を発表した。
さらに「北朝鮮は6.15宣言(2000年)と10.4宣言(2007年)の履行を要求している。これは北朝鮮への支援を文大統領に要求するもの」とし、その上で「口は出さずともカネは出せという北朝鮮に対し、何も言えない政府が嘆かわしい」と批判した。
続けて「北朝鮮が核とミサイルを放棄しない限り、北朝鮮との対話はあり得ず、北朝鮮への経済協力はさらにあり得ない。金正恩に対し謁見するように平壌で南北首脳会談をする考えは大きな問題だ」と強い懸念を示した。
そして「北朝鮮にとっては文在寅政権も傀儡にすぎないという現実を直視し、しっかりと実質的な安保対策を出すべき」とした。ちなみに、16行に及ぶこの日の論評には北朝鮮を非難する内容は一文も無かった。
今後の南北関係をめぐる国内葛藤を示唆か
青瓦台は14日、文大統領がミサイル発射直後、北朝鮮に対し「厳重な警告」を行ったと明かした。
見てきたように、共に民主党と正義党は青瓦台を好意的に見守る態度を、国民の党は原則を守りつつ協調への姿勢を示した。
また、今後の生き残りに向け党内調整に忙しい正しい政党は対応に精一杯の様子だ。
自由韓国党の過度とも思える文政権への敵対心は、安保問題という「保守」がよって立つ領域において譲歩しない上に、大統領選挙から続く「文在寅=親北」という構図で今後も文政権を攻撃していく「強い決意」を表すものと受け取れる。
一連の騒動の中で、青瓦台と文大統領が今後、北朝鮮への対応と自由韓国党への対応という、二重の苦慮を迫られる構図がはっきりと浮かび上がった格好だ。